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学会NEWS
平成28年11月15日

改正道路交通法施行に関する提言

平成27年度の交通安全白書によれば、わが国の四輪者乗車中事故死者の43.8%を高齢者が占めています。さらに、昨今では、児童を含む歩行者を巻き込んだ高齢運転者による死亡事故のニュースが後を絶ちません。こうした情勢に鑑み、公益社団法人日本老年精神医学会(以下、当学会と略す)は、平成29年3月の改正道路交通法施行に向けて、次のような提言を発することと致しました。
当学会は、改正道路交通法の趣旨に賛同し、その施行は今後の交通事故防止につながる大きな歩みと考えますが、社会の安全を担保しつつ、同時に、高齢者の尊厳を守り、生活の質を保証することが、法の実効性を上げるために不可欠であると考えます。つきましては、早急に、次のような対策をご検討くださいますようお願い申し上げます。
1.道路交通インフラの安全対策、高齢運転者を支援するハードウェアの開発促進
事故のリスクを下げると同時に、万一の事故の被害を最小にする為の備えが必要です。
  1. (1)高速道路パーキングエリア等での逆走防止用ゲート設置
  2. (2)児童の通学路におけるガードレール設置、通学路への自動車進入禁止の強化
  3. (3)自動ブレーキ、ペダル踏み間違い防止装置等の標準装備化およびその車両の購入補助制度の導入、この他高齢者が安全に運転できるような装備の開発・普及
  4. (4)視覚、聴覚等、高齢者の感覚機能低下に配慮した交通標識等の開発、設置
2.運転免許証の取り消し・自主返納に対応する「生活の質」の保証
免許の返納が、高齢者やその家族の生活の質を下げることがないよう、代替支援策を並行して進める必要があります。
  1. (1)公共交通が発達した都市部においては、収入に応じてタクシー利用券やバス乗車パス等の支給を検討すること
  2. (2)既存の公共交通システムが不十分な地域では、地域の実情に配慮した交通支援システムの開発・普及
3.高齢者講習会での実車テスト等について
ドライブシュミレータや教習所内での運転試験では、路上での安全運転に不可欠な認知、予測、判断、操作等の総合的な能力評価には不十分です。必要な場合には、教習所外での実車テストの導入を検討すべきだと考えられます。運転能力は、講習予備検査(認知機能検査)、その他の認知機能検査、実際の運転技能の評価等から総合的に判断されるべきです。
4.「認知症」と一括されていることの問題点
認知機能の変化を引き起こす病気の種類等によって、記銘力、見当識等の障害が心理検査上明らかでも、安全な運転技能を持つ人がある一方で、こうした機能に変化が見られなくても、安全な運転が著しく困難になる人もあります。つまり、認知機能の低下による運転不適格者であることと、『認知症』と診断されていることは必ずしも同義ではありません。「認知症」と一括りにして運転を制限するのではなく、その個人が生活する場の特性を踏まえて、現実的な能力評価に根ざした判断が必要だと考えられます。この課題については、今後の医学的エビデンスの集積と改正道路交通法施行後の事故事例分析等に基づき、将来検討されるべきであると判断されます。
これら4項目の中で、特に1および2については速やかに実行されることが重要と考えます。「高齢者の生活の質」を保証した上で「より安全な社会の構築」を目指し、運転免許証の取り消しや自主返納だけに終始せず、道路交通に関するハード・ソフト両面の整備が喫緊の課題であると考えます。
以 上
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